意外と知られていない、ロンドンの隠れた観光スポット
「新しい高層ビルの基礎工事の際に、古代ローマの遺跡が見つかった」というニュースは、実はロンドンでは珍しくありません。
私たちの足元には2000年前のローマ帝国の痕跡が眠っているのです。現役アーキテクトとして働く私が毎日通勤で歩くロンドンの街には、古代ローマの都市計画が今なお影響を与えています。
ローマ時代のロンドンに思いを馳せて、隠れた観光スポットを覗いてみませんか?
- 意外と知られていない、ロンドンの隠れた観光スポット
- ロンディニウム:テムズ川が育んだローマの前哨基地
- ロンドン・ウォール:現代に生きる古代の記憶
- 偶然の発見が語る都市の重層性
- 地下深くに眠る、ロンディニウム
- 現代建築との共生
- おわりに: ローマ遺跡ツアーはいかが?
ロンディニウム:テムズ川が育んだローマの前哨基地
ローマ時代のロンドンは「ロンディニウム」と呼ばれ、ローマ軍のブリタニア侵略の拠点であり、商業の中心地でもありました。その立地選択には、都市計画における重要な要素が考慮されていました。イングランド南東部を横断するテムズ川が最も狭くなっている地点に位置し、軍事的な観点から渡河が容易であったこと、そして経済的な観点からテムズ川を利用した大陸との貿易に適していたことです。
意外な資源:鉛が築いた都市インフラ
資源の少ない荒涼としたブリタニアで、ローマ人が特に重宝したのは、なんと鉛(Lead)でした。
鉛は当時の都市インフラにとって不可欠な材料で、下水道のパイプから建築資材まで、幅広く使用されました。
この伝統は現代まで続いており、今日のロンドンの家屋でも屋根材として鉛シートが一般的に使用されています。
この鉛の利用は古代ローマの優れた工学技術を示す好例かと思います。
当時の建築家たちは、鉛の耐久性、加工のしやすさ、防水性を理解し、それを都市インフラに効果的に活用していました。
まだまだヨーロッパの田舎、未開の地だったのブリタニア人には、ローマ人が鉛の発見で喜んでいた姿は不思議だったかもしれませんね。
ロンドン・ウォール:現代に生きる古代の記憶
さて、私が勤める建築事務所はロンドン中心部の東側にあり、この地域にはロンディウムの名残が多く残っていて、地名にもその名残りがあります。
その中でも、特に目立つのが「ロンドン・ウォール」です。
それはローマ時代にロンディニウムを囲んでいた壁の跡で、外敵からの防御や税金の取り締まりのために、ローマ人が設けた6つのゲートの存在も記憶され、現在も地名に残っています。
6つのロンディニウムへの入り口
- Ludgate セントポール大聖堂近く
- Bishopsgate リバプールストリート駅近く
- Aldgate ブリックレーン近く
- Newgate ドラマ『シャーロック』で知られるバースロミュー病院近く
- Cripplegate バービカン・エステートの敷地内にあるSt Giles Cripplegate Church近く
バービカンの由来
私のオフィスの最寄り駅のバービカンも、ロンドン・ウォールに関連する地名であり、城壁の外側に飛び出した部分を指しています。
バービカン駅の「バービカンセンター」はモダニズム建築として有名ですが、もともとの名称にはこの地名の意味が反映されています。
実際、バービカンセンターはロンドン・ウォールに接する位置にあります。
つまり、最も古いロンドンは、ロンドン・ウォールとそのゲートの内側で、これが現在のロンドンの金融街、シティ・オブ・ロンドンの原型となっています(ただし、現在はローマ時代よりも少し大きくなっています)。

(ロンディウムの地図。画像はこちらからお借りしました。)
この時代、テムズ南岸から、ロンドンに入るための橋は、ロンドン橋だけでした。
ロンドン橋も長く奇妙な歴史を持った橋なので、今度改めて記事にしてみようと思います。
偶然の発見が語る都市の重層性
ロンディニウムは、現在の金融街、シティ・オブ・ロンドンの原型ですので、現存する遺跡は、ロンドンの中でも、現代的な高層ビルや歴史的な建物が立ち並ぶ、都会のど真ん中にひっそりと点在しています。

オフィスから歩いて10分ほどにある、ロンドン・ウォールの遺跡。
ロンドンの建築の特徴的な点は、異なる時代の建造物が文字通り「積層」していることです。チューダー時代やビクトリア時代の建築家たちは、ローマ時代の遺構を建材として再利用することがありました。

この遺跡に関する説明の看板です。
ローマ時代の壁をベースに、壁を積み重ねて行ったことがわかります。
一番上の赤っぽいレンガが、1477年の薔薇戦争の時代に作られた部分だそうですが、この状態が発見されたのも、第二次世界大戦の空爆によるものというのですから、ロンドンの歴史は面白いですね。
地下深くに眠る、ロンディニウム
ロンディニウムの遺跡は、現在の地表から約7〜8mほどの深さに埋まっていることが多いらしいです。
私は、オフィス設計の仕事はあまりしないのですが、社内や社外の関係者から、稀に「シティーに作るオフィスビルの基礎工事をしていたら、遺跡が出て来て工事が止まった」という話を時々聞きます。
日本や世界の他の地域のように、火山があるわけでもないのになぜそんなに地下深くに埋まってしまったのでしょうか。
- 建設と解体の繰り返し
- 建物が解体されても完全に撤去されず、その上に新しい建物が建設
- 木造建築の火災後の瓦礫が地層として堆積
- 中世以降の石造建築の解体材料も層を形成
- テムズ川の氾濫による堆積物
- 定期的な洪水による土砂の堆積
- 河川の運搬土砂による地表の上昇
- ロンドン盆地の地盤沈下
- 粘土層の自然圧密による沈下
- 地下水の汲み上げによる地盤沈下
- 衛生環境の改善
- 中世の疫病対策として意図的な嵩上げ
- 下水道システム構築に伴う地表レベルの調整
などの複合的な理由が原因と考えられています。どれも、ロンドンの発展の歴史を物語る要因ですね。
また、地下深くに埋もれていたということで、遺跡の保存状態が良好だったり、現代の開発との共存が可能だったりと、都合のいい部分もあります。
(まあ、工事を止められてしまうのは困りものですけどね)
現代建築との共生
ギルドホール美術館の地下には、約2000年前、ローマ時代の「アンフィシアター」が保存されています。
これが中々大きいのですが、2000年もの間、発掘されるまでロンドンの地下にこんなものが眠っていたとは!と驚きます。

ギルドホール地下の展示場
そして同じく、シティー・オブ・ロンドン内に2017年に完成した、フォスター卿(Foster + Partners) 設計のBloomberg European Headquarterの地下にも、ローマ時代の遺跡が保存されています。こちらの遺跡はローマ時代のTemple(寺院)。


ちなみに、このBloomberg HeadquarterはStirling Prizeを受賞されています!
写真で見るより、実物の方がずっと素敵な建物です。

建物自体はFoster+Partnersの設計ですが、展示スペースは、アメリカのLocal Projectsというところが手がけたそうです。

ギルドホールの展示場は、シンプルで遺跡が引き立つものでしたが、
こちらの展示は、さながら現代美術館のよう。
(写真はDezeenより)
おわりに: ローマ遺跡ツアーはいかが?
というわけで、
ロンドンといえば、バッキンガム宮殿やウェストミンスター寺院などの豪華な建物を想像する方も多いと思いますが、意外とローマ時代の遺跡が身近だったりするんですよ。
もう有名な観光地は一通り巡ってしまったし、他に何か見るところないの?なんてロンドン初心者を卒業した方には特に、ロンドンのローマ遺跡散策をおすすめします。
一気に全てを回るのは大変ですので、西側と東側で分けるのがお勧めです。
私のお勧めは、まず、Moorgate駅出発で、
Salter’s Gardenに寄り、近くのRosslyn Coffeeでコーヒーを買って、ギルドホール美術館へ向かいます。(もしくは、Rosslynでコーヒーを買って、Salter’s Gardenで一服するのもいいですね)

オリジナルの焙煎で、他とはひと味違うコーヒーがとても美味しくて、個人的にめちゃくちゃにお気に入りです。シティー内に5軒の支店があります。
こちらの店舗は、店内に座る場所はなく、コーヒーを買いに立ち寄る人で、出入りが激しいです。

Salter’s Gardenは、遺跡とともにキレイなガーデンもあって、天気が良ければ、コーヒー片手にちょっと休憩するのに最適です。Rosslynの紙コップが可愛いのもお気に入りポイントです!
こんな感じで、美味しいコーヒーやお茶を片手に、ロンディニウムの遺跡散策はいかがでしょうか?
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