愛され続けるセント・ポール大聖堂
古典に興味のカケラももなかった建築学生の頃から、夜のテムズの南岸から眺めるセント・ポール大聖堂の美しさに魅了されていました。
夜空に浮かぶ、美しいドーム。
周辺の現代建築が薄っぺらくすら感じたものです。
前回のブログでお話しした古代ローマの街「ロンディニウム」。その城壁に囲まれた街は、ローマ帝国の撤退後も、イギリスの中心として発展を続けました。
初期のセント・ポール大聖堂が建てられたのは、607年と言われています。その後何度も何度も焼失しながら、再建されて来ました。
しかし1666年、たった一軒のパン屋から始まった火災が、この街と、セントポール大聖堂の運命を大きく変えてしまいます。
- 愛され続けるセント・ポール大聖堂
- 中世ロンドン:過密都市化への道
- 1666年の悲劇:運命の分岐点
- 災い転じて福となす:クリストファー・レンの登場
- セント・ポール大聖堂:建築の革新性
- おわりに:都市の記憶を未来へ
中世ロンドン:過密都市化への道
4世紀に及ぶローマの統治が終わり、アングロサクソン人の時代を迎えたロンドン。興味深いことに、ローマ時代の城壁は依然として都市の境界線として機能し続けました。その結果、限られた空間の中で都市は過密化の一途を辿ります。
当時のロンドンで主流だった建築様式は、チューダー様式。

リバティー百貨店は、美しいチューダー様式の建物で有名です。写真はこちらから
木材を骨組みとし、白壁が特徴的なこの建築様式は、確かに美しかったのですが、同時に大きな危険も孕んでいました。建物と建物の間隔は狭く、まさに火事が起これば、一発で市中に広がってしまうような状況だったのです。
1666年の悲劇:運命の分岐点
1666年9月2日、City of Londonの小さなパン屋から出火した火は、瞬く間に市中に広がりました。これがロンドン大火災の始まりでした。
最終的に、ロンドン・ウォール内の約3分の2が焼失するという未曾有の大災害となったのです。

大火災から350周年だった2016年に、当時のロンドンのミニチュアを作成し、大火災を再現するイベントが行われました。
災い転じて福となす:クリストファー・レンの登場
ここで登場するのが、建築家クリストファー・レン。
チャールズ2世の信頼が厚かった彼は、実は大火災の前から、古くなっていたセント・ポール大聖堂の建て替えを提案していました。しかし、保守的な意見に阻まれ、実現には至っていませんでした。
大火災直後、レンは野心的な都市計画を提案します。パリのような放射状の街路パターンを取り入れた斬新な案でしたが、残念ながら採用には至りませんでした。しかし、彼に与えられた仕事は決して小さくありません。焼失した51の教会の再建と、セントポール大聖堂の再建です。
この大聖堂は、バロック建築様式の影響を強く受けた壮大なデザインで設計されました。
セント・ポール大聖堂:建築の革新性
セントポール大聖堂の再建工事は1670年に本格化し、なんと11年もの歳月を要しました。特に印象的なのが、巨大なドームの構造です。世界的に見ても、かなりの大きさらしいですね。

外観から見ると壮大でありながら、内部から見上げても圧迫感を感じさせない。この絶妙なバランスの秘密は、実は「三層構造」にあります。

画像はこちらから。
- 内側のドーム:礼拝空間に相応しい高さと装飾
- 構造用の中間ドーム:荷重を支える技術的な要
- 外側のドーム:都市のランドマークとしての存在感
要するに、外観の大きさに合わせたドームだと、大き過ぎて重過ぎ、構造に無理が生じるけれど、
内部空間とのバランスに合わせたドームだと、小さ過ぎて外から見ると見栄えが良くない。
なので、内側用のドームと、外観用のドームが別々に存在しているのです。そのお陰で、重さも半減して、構造的にも楽になったそう。
この革新的な設計により、見た目の壮大さと構造的な合理性を両立させることに、見事成功。
夜にサウスバンクから眺めるドームの優美なシルエットは、まさにこの技術の結晶と言えるでしょう。
興味深いことに、当時は建築後進国と言われていたイギリスで生まれたセント・ポール大聖堂は、後にパリのパンテオンにも影響を与えることになります。
レンが、フランス渡った際に憧れ、学んだバロック様式。それを独自の解釈で昇華させた結果、逆に大陸建築に影響を与えるまでになったのです。

おわりに:都市の記憶を未来へ
大火災という悲劇は、皮肉にもレンに夢の実現の機会をもたらしました。
そして彼の創造力は、災害からの再生を象徴する傑作を生み出し、セント・ポール大聖堂は、300年以上が経った現在のロンドンでも、重要なランドマークとして存在し続けています。
セントポール大聖堂の完成は、ロンドンの中世からバロック様式への移行を象徴するものでした。
歴史の転換点に立ち会うこととなったレンは、見事に、都市の記憶を未来に引き継ぐ大切な役割を果たしました。
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