通常の都市計画のルールを飛び越えて、わずか数年で生まれ変わった港町
毎日12万人以上の人々が行き交う、ロンドンの超高層ビル群。スーツ姿のビジネスマンが闊歩し、新世代のカフェやレストランが立ち並ぶカナリーワーフ。
でも、40年前のここは、誰も見向きもしない寂れた港町だったって知っていましたか?

実は、このガラスと鉄骨が輝く未来都市のような街並みには、サッチャー政権による大胆な政策と、前例のない特別な開発権限が隠されているんです。今回は、カナリーワーフの知られざる変貌の物語をご紹介します。
荒廃した港から金融街へ:意外な始まり
カナリーウォーフって、昔から金融街だったの?
実はそうではありません。1980年代まで、ここは寂れた港湾地区でした。面白いことに、その名前の由来は19世紀にここで盛んだった「カナリア諸島との貿易」から来ています。

SOMのウェブサイトから。開発前のカナリーウォーフ
サッチャー改革と特別な権限
1980年代、この地域を大きく変えたのが、サッチャー政権による画期的な政策でした。政府は荒廃したドックランズ地域の再生を加速させるため、「ロンドン・ドックランズ開発公社(LDDC)」という特別な組織を設立します。
実はこのLDDCには、驚くべき権限が与えられていたんです:
- 地方自治体を通さず、直接開発を承認できる権限
- エンタープライズゾーン指定による規制緩和
- 通常なら必要な複雑な許可手続きの免除
これらの特別な措置により、開発のスピードは劇的に加速。
普通なら何年もかかる手続きが、数ヶ月で完了することもあったそうです。
サッチャー政権下で実現したカナリーワーフの再開発は、一貫して「サッチャー主義の象徴」とまで語られることもあります。
なぜこれほど重要であり、力を入れて成し遂げたのかを考えてみましょう。
ドックランズ地域の荒廃と経済問題
カナリーワーフを含むロンドン東部のドックランズ地域は、1950年代以降の海上輸送のコンテナ化により、毎年行われていた貿易活動が止まり、地域は荒廃していました。ほぼ全てのドックが閉鎖し、地域の主要な仕事であった港湾業務や海運関連産業は壊滅。
このかつての経済権力の中心は、完全に停滞していたのです。
金融業界の拡大とロンドンの再生
サッチャー政権は、ロンドンを再び世界金融の中心地にするため、カナリーワーフを新たな金融ハブとして活用することを目指しました。既存の金融特区であるシティ・オブ・ロンドンでは、すでにオフィススペースが限られており、金融業界の拡大に対応できなかったため、広大な未開発地を持つドックランズ地域は理想的な候補地となりました。
世界的建築事務所が描いた未来の街
カナリーウォーフの再開発は、複数の世界的な建築事務所の協力によって実現しました。特筆すべきは、最初のマスタープランを手がけたSkidmore, Owings & Merrill (SOM)の存在です。彼らが描いた壮大なビジョンが、現在のカナリーウォーフの基礎となっています。
SOMのマスタープランでは:
都市デザイン:マンハッタンに着想を得たグリッド状のレイアウトで、秩序と効率的な移動を実現。
複合用途開発:オフィス、住宅、商業施設、公共スペースを融合させた開発。
公共空間:広場、ウォーターフロントの遊歩道、公園が特徴で、歩行者の利便性や交流を促進。
交通の接続性:DLR、ジュビリーライン、そして後のクロスレール(エリザベスライン)を含む公共交通機関としっかり連携。
象徴的な建築:ワン・カナダ・スクエアをはじめとする高層ビルが独特のスカイラインを形成。

SOMのウェブサイトから。マスタープランの模型
さて、個々の建物の設計デザインには、さまざまな建築事務所が関わっていますが、中でも重要な役割を担ったのが、フォスター卿率いる、Foster+Partnersでした。
Foster+Partnersがデザインしたのは、カナリーウォーフを象徴するランドマーク的な二つの建築、HSBC ヘッドクォーターと、ジュビリーラインのカナリーウォーフ駅です。
カナリーウォーフ駅(ジュビリーライン)は、機能的でありながら美しい空間デザインが際立つ駅です。地下深くに位置しながらも自然光を取り入れた開放的な空間と、効率的な動線設計が特徴的で、ロンドン地下鉄の中でも特に印象的な建築作品の一つです。


カナリーウォーフ駅 画像はこちらから
HSBCヘッドクォーターは、シンプルで機能的な美しさと環境配慮を兼ね備えたビルとして、Foster + Partnersのデザイン哲学を反映しています。
この建物は、HSBCのグローバルな金融プレゼンスを象徴するとともに、HSBCが、本社をこのビルに置くことで、カナリーウォーフがロンドンの金融中心地としての地位をさらに確固たるものにし、その後の地域の発展にも貢献しました。

HSBC ヘッドクォーター 画像はこちらから
おわりに
カナリーウォーフは、単なる近代的なオフィス街ではありません。サッチャー政権の大胆な改革、SOMの先駆的なマスタープラン、そしてFoster + Partnersを含む数々の建築家たちの努力が作り上げた、現代イギリスの象徴とも言える場所なんです。
そして、この地区の発展は現在も続いています。2022年に開業したクロスレイル(エリザベスライン)のカナリーウォーフ駅は、Foster+ Partnersによる未来的なデザインで注目を集めています。北ドックを跨ぐように建設された特徴的な駅舎は、カナリーウォーフの新たなランドマークとなっています。
この駅についての詳細は、また次の機会にご紹介したいと思います。
次回ロンドンを訪れる際は、この知識を携えて街歩きを楽しんでみてはいかがでしょうか?
地上の高層ビル群から地下の最新駅施設まで、きっと新しい発見があるはずです。
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