King’s Cross Series(キングスクロス再開発シリーズ)
ロンドンで建築の実務に携わりながら、近所に住む地元住民として日々この街を見ています。再開発で変わり続けるキングスクロスの表情を、生活の中で感じてきました。
その歴史・再開発・建築の裏側を、シリーズとして継続的に深掘りしています。
鉄道と運河の歴史 ➤ KXの原点となるインフラの物語
マスタープランの全貌 ➤ 街はどう再生されたのか?再開発の鍵とは?
R7:再開発で生まれた現代建築のアクセント ➤ 再開発後に生まれたランドマークのひとつ
キングスクロスに“軽やかさ”をもたらした建築:R7とは
キングスクロスの再開発エリアに立つと、歴史を受け継いだレンガ倉庫や穏やかな運河沿いの風景の中に、ひときわ鮮やかな“ピンクのボリューム”が目を引きます。
それが、現代建築のアクセントとして知られる R7。
機能性を重視したオフィスでもなく、華美なランドマークでもない、しかし、この建物は街の雰囲気を軽やかに変える「色と光のスイッチ」のような存在です。
R7は、Allies and Morrison が手がけたマスタープランによって定められた街の骨格の中で、公共・文化と日常機能が交差する複合建築として設計されました。
」として計画されました。
シネマ、ワークスペース、ショップがひとつの建物にまとまり、街の“毎日”に自然に溶け込みながら存在感も放つ、稀有な都市建築です。
歴史ある街の中で、なぜこのようなポップな建築が成立したのか。そして、R7 がキングスクロス再開発にどんな新しい関係性を生み出しているのか。
この記事では、再開発の文脈の中で読み解く R7 の魅力と設計思想を建築の視点からわかりやすく紹介します。
- ピンクが街に馴染んで見える理由
- Morris & Company の色彩は“特徴”ではなく“設計言語”
- 地上階には、街と建物の境界がふっと薄くなる瞬間が
- Baby Club:生活者が“安心して過ごせる”と感じる場所
- 外部テラスと soft spots:働く人のための“調整の余白”
- まとめ:R7 は華やかさの裏に“静かな受容力”を持つ建築 R7 はピンクのインパクトだけで語り切れる建物ではありません。
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グラナリースクエア側からの眺め。手前に見えるのが、CSMの校舎です。
画像はこちらからお借りしました。
ピンクが街に馴染んで見える理由
R7 のピンクは、結果的に St Pancras ホテルの煉瓦色と呼応しています。素材の色味が多様なキングスクロスでは、この温かみのあるトーンがよく合います。
また、建物の形態は隣にある Central Saint Martins(CSM)の高さに合わせて、高低差をつくる構成になっています。
その段差が外部テラスとなり、R7 のシルエットに奥行きを与えています。
見た目は大胆ですが、街との関係を丁寧に読み取った建築だと感じます。

すぐ隣にある古い倉庫を改装した建物からの眺め。画像はこちらからお借りしました。
Morris & Company の色彩は“特徴”ではなく“設計言語”
R7 のピンクについて、設計者 Joe Morris は次のように語っています。
“Pink is a colour that we use a lot. It’s quite a human colour…We wanted it to have a more domestic rather than corporate appearance.”
この言葉は、Morris & Company が建築で何を大切にしているのかをよく表しているように思います。
Morris + Company の作品をいくつか見ると、やわらかなグレー、少しくすんだオレンジ、そしてトーンを抑えたグリーンなど、原色ではないのに強く印象に残る色が使われています。控えめというより、むしろ建物の個性を決定づける存在として色を扱っています。
色を単なる装飾ではなく、建築の輪郭をかたちづくる“素材”として扱う感覚があるため、R7 のピンクも偶然から生まれたにせよ、「Morris + Company の建築だ」と直感的に分かる自然さを持っています。
企業的な硬さではなく、生活のスケールに寄り添う方向へ建築を引き寄せる。その姿勢が R7 の色使いにも表れているように感じます。

画像はこちらから
地上階には、街と建物の境界がふっと薄くなる瞬間が
R7 の魅力は外観以上に、1 階のつくりに現れています。
Handyside Street から続くコロネード状のカバード・ウォークウェイ、高さをしっかり取ったロビー、映画館、レストラン、ジム。
用途の並べ方だけを見れば複合ビルですが、実際に歩くと街の流れがそのまま建物に入り込むような、自然なつながりを感じます。
豪華さや劇的な演出ではなく、滞在しやすい空気があります。それが、R7 の“公共性”をつくっています。

通りに面したエントランス部分が、コロネードっぽくなっていてかっこいい
R7の足元に広がるコロネードは、単なる意匠ではなく、街に“余白”をつくるように計画されています。
柱列がつくる規則的なリズムの中に、風が抜け、光が揺れ、街が静かに呼吸するような心地よさがあります。
こうした空間的な余白があるおかげで、建物のボリュームが軽やかに感じられ、歩く人も立ち止まる人も自然に受け入れてくれます。
週末にこのあたりを歩くと、広さと段差のなさ、視界の抜けの良さのおかげで、子どもたちがスケートボードをしていてもまったくストレスがありません。
「都市空間がきちんとデザインされている」とは、こうした“日常の身体感覚”が快適になることなのだと気づかされます。
Baby Club:生活者が“安心して過ごせる”と感じる場所
1 階の Everyman Cinema では “Baby Club” という、ベビー連れ向けの上映会が行われています。
照明は柔らかめで、音量は控えめ。ベビーカーのまま入れるつくりで、チケットにはケーキとドリンクが含まれているそうです。
私は自分で利用したことはありませんが、マタニティリーブ中に地元のお母さんたちから「良いよ!」とよく聞きました。
赤ちゃんが泣いても、周りも赤ちゃん連れのママパパなので、さほど気にしなくてもいいいこと、久しぶりに映画館で映画を見る時間を持てること、ケーキもチケットに含まれていることなど、地元のママやパパのちょっとした息抜きの時間に貢献しています。
建築の公共性は図面だけでは語れません。こうした“実際の使われ方”や、“安心して居られる空気”の中にこそ宿るのだと感じます。
外部テラスと soft spots:働く人のための“調整の余白”
R7 は各階に外部テラスがあります。視線が抜け、空気が変わる場所があることは、長時間建物にいる人にとって大きな助けになります。
床に配置された “soft spots” は、テナントが働き方に合わせてパネルを抜いて内部階段をつくるなど、空間を柔軟に変えられる仕組みです。働き方が変化していく前提で建物を設計するという考え方は、長期的にも合理的だと思います。
まとめ:R7 は華やかさの裏に“静かな受容力”を持つ建築
R7 はピンクのインパクトだけで語り切れる建物ではありません。
文脈への応答、印象的な色彩、開かれた グランドフロア、Baby Club のような生活者に寄り添う場所、働く人のための余白。どれも派手な要素ではありませんが、それぞれが丁寧に積み重なり、建物全体の“優しさ”を形づくっています。
キングスクロスの再開発が目指す “都市を生活の器として再編する” という思想が、R7 にはとても素直なかたちで表れているように感じますR7は、キングスクロス再開発エリアの中でも「都市の新しい顔」として、特におすすめしたい建築です。
再開発というと大型プロジェクトばかりが目立ちがちですが、こうした“遊び心とストーリーのある中規模建築”も見逃せません。
次にキングスクロスを訪れたときは、ぜひ立ち止まって観察してみてください。
隣には、みんな大好き(?!)Gail’sもありますよー
思いがけず、中々いい感じのインテリアで居心地良さそうでした!

👉 R7 – Morris+Company公式サイトはこちら
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